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「太平洋クラブ」民事再生法の不思議

岸田 徹 【岸コラ】
2012年2月1日(水)

ジャンボ尾崎が日本プロゴルフ選手権で初優勝した1971年、太平洋クラブが設立された。ジャンボは2年後に世界4大トーナメントのひとつマスターズで東洋人初の8位入賞を果たした。翌年の日本オープンで優勝。するとライバルの青木功が全米オープンで準優勝(1980年)、世界4大大会すべてに入賞した中嶋常幸と3人で日本に一大ゴルフブームを巻き起こした。

太平洋クラブ設立時期とゴルフブームは上手く合わさった形だが、設立時の事情にはもう一つ重なるものがある。田中角栄の日本列島改造論(1972年)だ。太平洋クラブは後に住友銀行に吸収される平和相互銀行(1986年合併)が作ったゴルフ場開発運営会社だ。平和相銀の創業者小宮山英蔵(故人)は自民党の佐藤派から田中派へと応援を続けた人で、太平洋クラブ設立と日本列島改造論とは無縁ではない。

名前の由来は、環太平洋にゴルフ場を100コース造るということからだった。1970年代はゴルフブームの他に、海外旅行ブームが日本を取り巻き、経済の成長の後には必ずレジャー時代がやってくると目論んだゴルフ場建設計画だった。ハワイ、アメリカ西海岸、グアム、日本で、いつでもプレーができる100コースというのが太平洋クラブのキャッチフレーズだった。狙いは、ゴルフ場1コースでは募集する会員に限りができるが、海外を含めた100コースでプレーができるとなれば、何人でも会員を集めることができる点にあった。

太平洋クラブには年会費の規約があっても、実際には年会費がない珍しいクラブだ。その理由は、100コースができていない完成前(現在18コース)だという建前上の点に加え、いくらでも会員を集めることができるので、値上がりを見込むノン・ゴルファーの投資家にも会員権を買ってもらおうという狙いがあった。

高度経済成長にゴルフブーム、石油危機の大不況にバブル景気、バブル崩壊にデフレ経済ーーゴルフ業界は日本の景気に直接左右されながらアップ・ダウンを続けることになるが、太平洋クラブは常にバックに銀行が控えている「安心感」で会員を募ってはゴルフ場を買収していった。

日本のゴルフ会員権は日本独特の預託金制度で成り立っていた。預託金とは、入会時に入会金以外に会員がゴルフ場に預けるお金だ。その多くは高額で入会から10年たって退会する時に返されるという約束でゴルフ場が預かるケースが多い。ゴルフ場ができる前から会員募集をし、最初は安く、完成に近づくにつれて高くなっていくので、どんどん値上がりするのではないかと、ブームの時にはお客の方がゴルフ場の営業マンに頭を下げて売ってもらっていた。建設省(現国土交通省)の開発認可が下りると募集が始まるのが常で、預託金でゴルフ場が建設されるのが実態だ。そのため、10年たって会員が辞めると言ってもすでにそのお金はゴルフ場になっているので、実際には返すお金はない。

まったくおかしな仕組みだが、それを支えたのが経済成長時のインフレと日本の国土でゴルフ場ができる場所は2千カ所しかないという限界論だ。数が限られているところにインフレで物価が上がれば、1千万円で購入した会員権は10年後必ず値が上がり、ゴルフ場から1千万円を返してもらうよりゴルフ会員権市場で売れば必ず1千万円以上で売れるという理屈がゴルフ会員権神話になっておかしな預託金制度が延々と続いた。

この制度は、他の国では銀行法や出資法違反で認められない。日本の大蔵省がどうしてこの制度を放置したのかはいまだに謎だ。預託金の代わりに入会金でゴルフ場の収入にすれば返さなくてもすむので、日本のゴルフ場が次々に倒産する悲劇は生まれなかったろうが、収入になれば利益が出て税金を取られるのを避けたためか、多くのゴルフ場が預託金制度を採用した。ひょっとしたら、会員権を買う殿方が定期預金をしているのと同じだと奥さんを説得する材料になったのかもしれない。

実質的には会員の出資のような預託金だが、会計上は出資金でもなく、またゴルフ場から見て借入金でもない。単に預かっているだけのお金で、債権管理上も一番権利を主張できない性格のお金だ。会計上も法律上も中途半端な預託金は、グローバルな会計基準にまったく合わない存在となって、名だたる企業がこのお金でゴルフ場を造成することに株主の理解が得られない時代がやってきた。外資系ファンド会社がどんどん日本のゴルフ場を買収した背景には、会計基準の世界標準化で預託金を保有すると大きな障害になる日本の優良企業がゴルフ場を手放さざるをえなっかった事情もある。

外資のファンドがどんどん日本のゴルフ場を買収する中で、太平洋クラブは東急不動産とタグを組んで、外資に対抗した(2007年)。ところが、リーマン・ショック後の不況で預託金を返してほしいという償還請求が増え、さらに東日本大震災を受けてゴルフ場の利用者が激減し客単価の下落に歯止めがかからず、資金繰りが悪化して1月23日に民事再生手続きの開始を申請した(日経新聞)。会員数は約13,000人、負債総額は1,276億円、うち預託金は682億円(朝日新聞)、アコーディア・ゴルフが支援を表明しているので、会員は今まで通りプレーができるが、預託金の多くは返ってこないことになるだろう。

これで話が終わっても不思議ではないストーリーだが、本当はとっても不思議な話だ。

その不思議は、住友銀行がまったく顔を出さない新聞記事にある。各紙の記事内容は、帝国データバンクの調べをそのまま引用する形だ。旧平和相互銀行グループの支援を得て設立されたゴルフ場運営会社である点に重点が置かれている。これはおかしい。平和相銀が住友銀行に吸収されてから四半世紀がたっている。太平洋クラブは住友銀行系列の会社であることはマスコミの誰でもが知っているはずなのに、住友の名前が隠されている。周到な準備がうかがえる。

太平洋クラブは外資との対抗で同じようにゴルフ場を複数展開している東急不動産(会員権は共通会員権ではない)と業務提携し、この提携のためと思える親会社を設立している(2006年12月)。銀行が銀行業務に関係のない会社の親会社になることは法律上できない。そこで、平和相銀が太平洋クラブを設立した時も平和相銀の関係会社が平和相銀から融資を受けてそのお金で太平洋クラブへ出資をしていた。だから、実質的に太平洋クラブは平和相銀の会社だった訳だ。

東急不動産と提携した際につくられた太平洋クラブの親会社に当たる太平洋ホールディング合同会社には、当初東急不動産の他にエヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズという投資会社が出資していた。SMBCというのは住友・三井バンキング・コーポレーションで 旧住友銀行と旧三井銀行の他当時は住友系の大和証券グループの集合体のベンチャーキャピタルだ。旧三井銀行は旧神戸銀行と旧太陽銀行が入っているので、実に入り乱れた会社だったが、太平洋クラブの経営に参加した理由は、平和相銀を継承した住友銀行が責任を持つためのものであったことは間違いない。東急不動産が入っても、住友が手を引いたということになれば、会員権相場が下落する恐れがあるからだ。いったん下落が始まれば、市場で売るより、預託金を返してもらった方が有利なので、ゴルフ場の会社は資金繰りがつかなくなってしまう。それを住友銀行が支えないとなれば、銀行が危ないのではないかという評判が立ってしまう。

こうやって、太平洋クラブは住友銀行系列の金融機関と一部上場企業の東急不動産のバックがある安心できる会社になったはずだった。ところが、このエヌ・アイ・エフSMBCベンチャーズという会社は社名も変えた後、三井住友ファイナンシャル・グループと合弁契約を解消してしまった(2010年)。太平洋クラブの親会社である太平洋ホールディング合同会社の出資構成が分からないのでなんとも言えないが、恐らくこの時点で旧住友銀行は太平洋クラブから手を引いたのではないかと思える。

住友銀行の平和相銀吸収合併は、当時天皇といわれた磯田一郎住銀会長によって行われたが、平和相銀の不良債権があまりに多いので、当時の小松康頭取は反対だったと言われている。しかし、合併後の実態は、平和相銀の関係会社が抱えていた不良債権にも増して住友銀行が抱える不良債権を押し付けられたと関係者は語っている。太平洋クラブも例外ではなく、住友銀行が抱えていた表に出せない闇社会がらみなどの不良債権を太平洋クラブに付け替えたという報道が経済誌によってされている。

デフレ時代に預託金制度が存続できるはずもないが、その当然のストーリーに乗せられて、本当は違う事情で太平洋クラブの倒産が画策されたのではないかと疑える。このまま太平洋クラブの負債が法律によって清算されれば、住友銀行が抱えていた負の資産は永遠に葬ることができる。いくら不景気だからと言っても、会員全員が預託金の返還を請求している訳ではない。多くの会員は預託金をそのまま預け、会員としてプレーを楽しんでいる。一部の会員の返還請求に応えるために20億円ほど用意すれば、それで納まる問題だ。

新聞報道で住友銀行のすの字も出ないのは、SMBCが返還請求には関与しないことを新聞社が事前に知っているためだと考えられる。民事再生法はいわば事業を継続するために借金を棒引きにする方法だ。恐らく周到な計画が一部の住銀関係者の間で長い時間掛けて練られ、その計画通りに住銀の不良債権が太平洋クラブの預託金で葬る時が来たということではないのか。

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参考資料:

【注目のリリース】アコーディア・ゴルフが太平洋クラブの再生支援スポンサーに V ■東急不動産と共同運営の方向で協議【経済ニュース】 2012/01/24(火) 02:38 (情報提供:日本インタビュ新聞社=Media−IR)

<東証>アコーディアが大幅続伸 「太平洋クラブとスポンサー契約」で思惑 2012/1/24 15:00日本経済新聞 電子版392文字

太平洋クラブが倒産 【政治・経済】 2012年1月24日 日刊ゲンダイ掲載 メンバー1万3000人のプレー権、預託金682億円はどうなる <全国人気ゴルフ場18コース>

「御殿場コース」で有名な大手ゴルフ場運営 株式会社太平洋クラブ 民事再生法の適用を申請 2012/01/23帝国データバンク

朝日新聞デジタル ニュース 社会 記事2012年1月23日20時48分 ゴルフ場の太平洋クラブ再生法申請 負債1276億円

太平洋クラブが民事再生手続き 過去に球団経営 負債1276億円 2012/1/23 20:46日本経済新聞 電子版561文字

ゴルフホットラインニュース 太平洋クラブ、経営基盤の強化で持株会社を設立 (2007年4月18日)=ゴルフ特信 抜粋=

2007.03.24 東急不動産、太平洋クラブと業務提携 ゴルフ場運営で国内資本トップに 読売新聞 東京朝刊 B経

1999.03.23 小松康氏(元住友銀行頭取、同行相談役)死去 旧安宅産業救済合併に力尽くす 読売新聞 大阪朝刊 社会

1994.05.27 故磯田会長らの慰労金 住友銀行、今期も見送り 大阪朝刊 B経

1994.01.29 イトマン事件判決 日経新聞の協力者問題 検察の責任明確に(解説) 読売新聞 大阪朝刊 解説

1994.01.29 住友銀行が前会長・磯田一郎氏の遺族に弔慰金7億円支払う方針 読売新聞 大阪朝刊 B経

1993.12.04 故磯田一郎氏 「最強の頭取」「バブルの張本人」… 「収益至上主義」に功罪 読売新聞 東京朝刊 B経

1993.12.04 磯田 一郎氏(住友銀行前会長、元経団連副会長)死去 イトマン事件で辞任 読売新聞 東京朝刊 一面

1993.06.30 住友銀行、磯田一郎前会長への慰労金を今回も見送り 読売新聞 大阪朝刊 B経

1992.02.01 イトマン事件 日本経済新聞社の調査報告書要旨 読売新聞 大阪朝刊 二面

参考サイト:

大和証券グループのあゆみ

株式会社アコーディア・ゴルフ 株式会社太平洋クラブとのスポンサー契約の締結に関するお知らせ

不動産の総合サイト:東急不動産 株式会社太平洋クラブの民事再生申立に伴う今後の対応について

太平洋クラブ 民事再生手続開始の申立てに関するお知らせ

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