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岸田 徹 【岸コラ】 |
75歳になる老婦人が今月2日にアメリカ大使館とイギリス大使館を訪問した。3歳年下の弟の解放を求める嘆願書を届けるためだった。弟は40年以上拘束されたままになっている。拘束場所は東京拘置所。弟は42年前に清水市(現在の静岡市)で起きた味噌会社専務一家四人の殺害事件の犯人として死刑が確定した。「袴田事件」として知られている。
姉の秀子さんと支援者は身柄拘束を解くよう求める声を国際的に高めるために洞爺湖サミットに合わせG8各国の首脳に秀子さんの手紙と嘆願書を郵送し、6月下旬から各国の駐日大使館を訪れている(読売新聞)。
この事件では、味噌工場のタンクから血痕のついたズボンなどの衣類が5点見つかり、血液型が殺害された被害者のものを含んでいたという理由で有力な証拠となった。ところが、事件直後にはこれらの衣類は発見されていなかった。味噌工場で働いていた容疑者はパジャマ姿で犯行に及んだとされていた。そのパジャマからも微量の血痕が付いてたが、血液型を特定するのは不可能だった。自白に基づき45通の調書が法廷に提出されたが、裁判官は証拠としての合理性に欠くとして44通を採用しなかった。
容疑者は第1回公判で、自白は強要されたもので取り調べの苦痛から逃れるために調書に署名したと主張した。殺害された味噌会社専務は柔道2段の巨漢で、事件当時悲鳴などがまったくなかったことから、犯人は相当な腕の持ち主だとの憶測が警察にはあったようで、元プロボクサーだった容疑者が最初から怪しまれた。
決定的な証拠がない裁判の公判中に工場のタンクから味噌に浸かった衣類5点が出てきた。そこで警察は容疑者の実家を捜索、タンクに入っていたズボンの共布を発見し、有力な証拠となった。静岡地裁は死刑判決を出したが、被告は控訴(1968年)。2審の東京高裁では4年前に発見された証拠のズボンを容疑者に履かせようとしたが、小さくて履けなかった。6年にわたる裁判だったが、東京高裁では控訴を棄却され、最高裁で争われることになった。しかし、上告は棄却され、1980年死刑が確定した。事件から14年がたっていた。
その後法曹界とボクシング界では死刑囚を救う活動が活発化し、弁護側が再審請求を静岡地裁に行った。10年後の1991年日本ボクシング協会の会長だったファイティング原田が後楽園ホールのリング上から再審開始を訴えたものの、静岡地裁はその3年後再審請求を棄却した。弁護側は東京高裁に抗告し、東京高裁は証拠となった5点の衣類をDNA鑑定するよう研究所に委嘱した(1998年)。しかし、結果は鑑定不能(2000年)。東京高裁は抗告を棄却した(2004年)。
弁護側はただちに最高裁に特別抗告をした。すると、1審の静岡地裁で裁判官だったという人が現れ、「有罪にするには証明がなされていない」と当時は無罪の心証だったことを明かし、再審支援に協力する申し出を支援団体にいていたことが明らかになった。ところが、今年の3月、最高裁は特別抗告を棄却。弁護団は、翌月静岡地裁に第2次再審請求を申し立て、姉の秀子さんはサミットに合わせて世界に弟の解放を訴えたのだった。
事件当時30歳だった容疑者は72歳。最近は死刑判決を伴った長い拘束状態から拘禁症状が出ていて、秀子さんが会おうとしても面会を拒否することが続いている。再審支援を申し出た元裁判官も70歳だ。
袴田事件は強盗殺人事件だが、奪われたものは現金20万円。当時の20万円はそれなりの金額だった。ビールが一瓶120円で、国鉄の最低料金は20円、封書が15円でハガキが7円の時代だった。「しあわせだなぁ」と加山雄三が「君といつまでも」を歌い、大鵬が連続優勝するテレビでは「おそ松くん」の放送が始まった。週刊プレイボーイが創刊されたかと思うと池田大作の「人間革命2」がベストセラーとなり、アメリカではウォールト・ディズニーが亡くなったが、日本では長嶋茂雄に長男が生まれた。1歳になった礼宮の将来の妃紀子さまが誕生したのもこの年だ。
グループ・サウンズの絶頂でビートルズが来日した。ジョン・レノンはこの年にオノ・ヨーコと彼女の個展で運命の出会いをした。航空機事故が日本でも海外でも相次ぎ、多くの犠牲者が出た。空の安全が叫ばれる中、日本政府は羽田にかわる新国際空港を成田に建設することを閣議決定した。それは学生運動と関わる成田空港建設反対闘争の始まりでもあった。
最も贅沢であこがれの的だった自動車の所有は、日産のサニーとトヨタのカローラの発売で自動車業界の熾烈な競争が始まった。日産はプリンス自動車を合併した。カラーテレビ、カー、クーラーは「3C」とか「新三種の神器」と呼ばれ、家庭に3Cがある生活に向かって全国民が走っていた。フランス映画「男と女」の主題曲だけが、「ダバダバダ、ダバダバダ」と奇妙な空気を作っていた。
これが、42年前の1966年だ。発売されたサニーとカローラはその後爆発的に売れたが、地球温暖化のためにCO2の排出を制限されると誰が考えただろうか。
袴田事件も現在の捜査手法をとれば、恐らく無罪の確定が捜査段階で行われたはずだ。DNA鑑定による捜査は1992年に始まった。
42年の歳月は日本人の生活を大きく変えた。だから、これから42年後も日本人の生活は大きく変わるに違いない。42年後は2050年だ。福田さんが地球温暖化対策のために世界全体の温暖化ガス排出量をこの年までに半減させようとG8首脳に呼びかけた。なんと空しい呼び掛けなのか。温暖化ガスは生活様式や産業構造の結果出されるもので、温暖化ガスを多く出したり少なくしたりするために人間は生活しているわけではない。それを人類の目標とするには無理がある。
それが証拠に、日本が必死にまとめた京都議定書の目標設定に、始まる前から日本はつまづいている。日本は2008年から2012年の間に、温暖化ガスの平均排出量を1990年より6%減らすことを目標にした。ところが、2005年度ですでに8.1%増えていることが分かってしまった。始まる前からやる気のないところが見えてしまっている日本の首相が、はるか遠くの将来にみんなで半減しましょうよと訴えても誰が本気で応えるだろうか。
もし、日本が2012年までに目標を達成できなかったら、日本は目標以上に達成している国から、あまった分を購入しなければならない。その購入金額が排出ガス1トン当たり千円だとすると、目標達成のために日本は7千億円を拠出しなくてはならないという試算が2007年の段階である。恐らくこれは1兆円単位の金額に跳ね上がるだろう。いったいこの金額は誰が出すのだろうか。1兆円という金額は5%の消費税に例えれば0.5%部分に相当する。もしこの財源を消費税に求めるとするならば消費税を5.5%にしなくてはならない。2兆円必要なら6%にする必要がある。
これを環境税として産業界を含め広く徴税しようとする動きがある。そんなことは許せるのだろうか。できもしない約束はしないと主張するアメリカのブッシュ大統領の方がまともに見える。日本は、新興国と言われる国々からすれば、経済成長を終えた裕福な国だ。しかし、多くの借金を抱え、予算措置が思うように進まない中で世界初の超高齢化社会を迎えている。高齢化社会の運営には莫大な金がかかるというのに、その原資がない。そんな状況で、温暖化に対する目標を達成できなかったペナルティをどうして払うことができるのだろうか。日本は決して裕福な国ではないのだ。
42年後の目標などといううわ言を国家の首相が言うために、各国の首脳を集めたのは本当に許せない。こんなサミット開催のためにいったいいくらのお金をつぎ込んだのか。洞爺湖町は7,400万円の予算を計上して町をきれいにした。札幌市は1億1千万円をかけていろいろなイベントや事業を行った。北海道がまとめた各省庁の関連予算は2008年度で369億円だった。町村官房長官はサミットの総予算を2年にわたり700億円要求している。はたしていくら使われたのかは分からないが、恐らくサミット開催のために使われた額は1千億円に迫るのだろう。
財政破綻した夕張市の赤字額は360億円だった。これを18年かけて返すために、夕張市民は大変な負担を強いられている。老人ホームも唯一の足の敬老パスもなくなり共同浴場まで削減され私立の総合病院も内科医が一人となった。
自分のところの自治体も救ってやれない借金大国が、贅沢三昧の首脳会議を開いて、できもしない目標を策定するために政府が必死になる。いったい何のための政府なのか。そんな政府に税金を払っているわれわれは何のために払っているのか。
CO2の排出を本当に半分にする必要があるのなら、それは2050年までの問題にするのではなく、たった今行うべきものだ。すべてのエネルギー消費行動を個人の生活でも社会生活でも経済活動でもすべて半分にするのならそれなりに意味がある。半分にすればその分不自由になるが、その分地球環境は人間の影響を受けない。温暖化は今押さえることにより、今の環境を取り戻せるが、長期の目標で達成しても、達成するまでの間の削減行動は新たな気象変化を呼ぶことになる。その2次被害も生じてしまう。地球が暖かくなったり冷たくなったりするのは、都合のいい人もいれば悪い人もいる、地球の問題と言っても人間が論じれば結局人間の問題になるのだ。
参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2008:「地球温暖化」「京都議定書」
温暖化対策G8の成績表 日本5位、米は「落第」 [2008年7月5日 読売新聞 東京朝刊 二面]
G8首脳に救済嘆願 「袴田事件」支援者ら=静岡 [2008年7月3日 読売新聞 東京朝刊 静岡]
温室ガス削減 「より厳しい目標を」潘・国連事務総長、日本に注文 [2008年6月30日 読売新聞 東京朝刊 二面]
ポスト京都対策 「自主行動計画」に強制力 勧告や業界名公表/経産省方針 [2008年6月26日 読売新聞 東京朝刊 A経]
袴田事件2度目の再審請求 みそ漬け実験で新証拠 地裁=静岡 [2008年4月26日 読売新聞 東京朝刊 静岡]
京都議定書を着実に実行へ/首相 [2008年4月23日 読売新聞 東京朝刊 政治]
袴田事件で最高裁の再審請求棄却 支援者失望「2次請求したい」 [年月日 読売新聞 東京朝刊 2社]
[マンデーリポート]サミット向け市町村予算 道内の知恵、見せ所=北海道 [2008年3月10日 読売新聞 東京朝刊 道社A]
洞爺湖町予算案 関連経費7400万円=北海道 [2008年3月4日 読売新聞 東京朝刊 道社B]
EU甘い割り当て…「排出権取引」改善の必要 サミット控え日本に難題 [2008年1月8日 読売新聞 東京朝刊 B経]
来年度予算財務省原案 サミット関連369億円=北海道 [2007年12月22日 読売新聞 東京朝刊 道社A]
サミット予算 町村官房長官「700億円要求」 「沖縄」レベルに=北海道 [2007年10月16日 読売新聞 東京朝刊 札2社]
「京都議定書」約束期間まで1年 温室ガス削減、道険しく=特集 [2007年2月5日 読売新聞 東京朝刊 朝特C]
袴田事件 死刑判決起案、元裁判官が語る 「有罪、むちゃだと思った…」=静岡 [2007年3月10日 読売新聞 東京朝刊 静岡]
袴田事件 判決文起案の静岡地裁元裁判官「無罪の心証」 再審支援を申し出 [2007年3月2日 読売新聞 東京夕刊 夕社会]
「袴田事件」で、血痕のDNA鑑定申請認める/東京高裁 [1998年2月25日 読売新聞 東京夕刊 夕2社]
参考サイト:
温暖化対策「先進国の中長期目標を」 デンマーク気候相(asahi.com)
(2/16)政府の環境有識者会議、勝俣・三村氏を起用(日経エコロミー)
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