本当に作るの!?「消費者庁」 どんな意味がある?「2050年のガス半減目標」

「イラク戦争の目的」

岸田 徹 【岸コラ】
2008年7月2日(水)

2008年7月1日日経新聞朝刊国際面イラクの石油相は、一昨日(現地6月30日)外資で開発を行う油田と天然ガス田を8か所発表した。日経新聞によれば、戦後復興を急ぐイラクが外資の力で原油の生産能力を引き上げる計画で、外資導入による油田開発は2003年のイラク戦争後初めて。イラク石油相は事前審査で絞り込んだ41社を対象に2009年3月までに入札を実施して落札企業と契約を結ぶ予定だ。

応札できる企業の41社の中には、日本の企業4社も含まれている。国際石油開発帝石ホールディングス、石油資源開発、新日本石油、三菱商事――世界規模からすれば小さいが三菱商事以外は石油資本の企業だ。世界のメジャー(国際石油資本)である、ロイヤル・ダッチ・シェル、エクソンモービル、BPなどももちろん41社の中に入っている。そればかりか、メジャーはすでにイラクにある既存の油田の改修を行うことで7月にも契約を結ぶ予定だという。

日本の報道では、イラク戦争で破壊された国土を外資の油田開発で早期に復興しようとする姿が浮かび上がってくる。ところが、中東の報道機関であるアルジャジーラは、このことをイラク戦争の目的が成就された瞬間だと伝えた。

NHKのBS放送で伝えられたアルジャジーラによれば、アメリカやイギリスが(大量破壊兵器を保有するという理由で)イラクを攻撃した本当の目的はイラクの石油がほしかったためで、イラクの採掘権を握る政府を倒し、メジャーが石油開発できるようにしたと報じた。

ブッシュ大統領が、父親の興した石油会社を引き継いでいるのは有名な話だ。そのため、石油業界と取引が深くメジャーに押されてイラク侵攻に走ったという観測があるが、それはあまりにストレートすぎる見方だ。副大統領のチェイニーは最大手の石油掘削機販売会社であるハリバートンの経営者であったと同時に個人最大の株主でもある。父ブッシュが起こした湾岸戦争と子ブッシュのイラク戦争では大儲けしたと言われていて、開戦当初からイラク戦争と石油利権争奪の関係は濃厚だと論じられてきた。

ニュースを客観的に伝えることは非常に難しい。どんなに客観的に見ても人間は自分が立っている視点からしか物事を見ることができないからだ。立場が違えば意見が違うのは当り前で、まったく客観的なニュース報道はありえない。その点からすれば、日経新聞が伝えるイラクの戦後復興のための外資による石油開発は間違った報道とは言えないだろうが、イラク同様ブッシュ大統領から悪の枢軸と呼ばれた独裁国家の北朝鮮には何の興味も示さないのに、イラクには自衛のための先制攻撃という非論理的な侵略戦争を積極的に行ったブッシュの背後にはメジャーがあるのではないかという見方はあって当然だ。

現在のメジャーはスーパー・メジャーと呼ばれている。それまでの7社のメジャーが再編され、メジャーがさらに大きくなったからだ。7社のメジャーは、アメリカのエクソン、モービル、ソーカル、テキサコ、ガルフ・オイルとイギリスとオランダのロイヤル・ダッチ・シェル、それにイギリスのブリティッシュ・ペトロリアム(BP)だった。これが、メジャー第2位のエクソンと4位のモービルが合併し最大手のエクソンモービルが誕生(1999年)。イギリスのブリティッシュ・ペトロリアムはアメリカの中堅2社を傘下に収め規模を拡大して略称のBPを正式社名にした(2001年)。この2社にイギリスとオランダのロイヤル・ダッチ・シェルを加えた3社がスーパー・メジャーと呼ばれている。アメリカのソーカルがガルフ・オイルを傘下に収めた後にテキサコを吸収したシェブロン(2005年)がそれにつづくが、他にもフランスとベルギーのトタール・フィナとイタリアのENIが世界の石油資本を形成している。

国際石油資本の形成国を見ると、まさにイラク戦争に対する参加度合と一致する。アメリカが大量破壊兵器をイラクが隠していると主張した時に国連で査察継続を求めたのは、ドイツ、フランス、ロシア、中国だった。フランスとロシアは石油開発の点で、フセイン政権と良好な関係にあったと一部で言われている。

メジャーが7大メジャーだったころ(1950年ごろ=これにフランスのトタールを加える場合もある)、世界の原油生産量の9割、石油精製量の7割、石油製品販売の7.5割をメジャーが支配した(北米・共産圏は除く)。ところが、1990年には生産量の15%、精製量の29%、販売量の38%とメジャーの支配は大幅に減少した。最大の原因は、産油国がOPEC(石油輸出国機構)を形成してメジャーに対抗したためだ。石油事業の国有化がどんどんOPECの中で進んだのだ。

そのOPECを提唱したのはイラクだった(1960年9月)。イラクの誘いでサウジアラビア、イラン、クウェート、ベネズエラの5大産油国で創設されたのが当時泣く子も黙ると言われたOPECの始まりだ。首記の外資導入による油田開発はイラク戦争後初めてだとする日経新聞の記事は、OPECの歴史から見るとピントがぼけている。OPEC発足後イラクはイラク石油の国有化を宣言し、中東で初めて完全な石油事業の国有化を果たした(1972年)。これ以降は外資がいくら手を出したくても出せなかったものだ。だから外資の油田開発はイラク戦争後初めてという表現はイラクを破壊した側による煙幕を張ったような表現で、破壊された側からすればおよそ35年ぶりに再び外資がイラクの石油に手を出したということになる。

イラク戦争が起きた時の背景には、ソ連崩壊によりソ連の領土内だった場所の油田開発が世界の需給関係に大きく影響を与えたり、アメリカの裏庭と言われる産油国のベネズエラで新しい社会主義を掲げるチャベス大統領が絶大な人気を博したりと、アメリカとメジャーを揺るがす難問が山積していた。民族と宗教の問題も絡み、イラク戦争の始まりは今となっては簡単に論じられなくなった。

しかし、メジャーにとってイラクは長年OPECの象徴だったことは間違いない。メジャーにしてみれば、自力で掘り当てた油田を一夜にして国有化された悪夢は忘れ難いものだろう。国有化された油田を取り戻すには戦争でその国が破壊されることが最も望ましい。

この記事の読者数: 無料カウンター


参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2008:「メジャー」「石油」「ベネズエラ」「ブッシュ」「チャベス」「フセイン」「ソ連」

8油田・ガス田、外資導入 13年に原油8割増産 日系4社など応札資格 [2008年7月1日 日経新聞 朝刊 国際面]

コロンビアの麻薬王を逮捕 [2007年9月11日 読売新聞 東京夕刊 夕二面]

コロンビアの麻薬王兄弟釈放へ 刑期軽減、ウリベ大統領は不快感 [2002年11月2日 読売新聞 東京夕刊 夕二面]

「産油国」塗り替えられる力学地図 ロシア台頭、アラブ沈下 [2002年6月16日 読売新聞 東京朝刊 三面]

[エネルギー・21世紀の選択]2001年回顧 米・加州電力危機 [2001年12月28日 読売新聞 東京朝刊 朝特C]

[編集委員が読む]京都議定書 温暖化で問われる地球人の責任 鶴岡憲一 [2001年5月14日 読売新聞 東京朝刊 解説]

ベネズエラのチャベス政権、独自外交を展開 中露に接近、米を刺激 [2001年5月5日 読売新聞 東京朝刊 外B]

米大手石油のシェブロンがカザフ進出へ [1992年5月20日 読売新聞 東京朝刊 A経]

メジャーがソ連原油確保に意欲 エネルギー安保は議会で暗礁/米 [1991年8月2日 読売新聞 東京朝刊 B経]

参考サイト:

米国のテロ報復戦争の愚(青山貞一氏)

シャハリスタニ氏就任否定  イラク首相でCPA報道官

【岸コラ】もくじ 【岸田コラム】 home

Copyright © Toru Kishida 2008 All Rights Reserved.