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岸田 徹 【岸コラ】 |
パロマ工業製のガス湯沸かし器事故で18歳だった二男を亡くした母親が先月19日福田首相を訪ねた。首相官邸で福田さんと面会した母親は「経済産業省は事故情報を把握していたのに対処しなかった。二度と被害を出さないような消費者庁をつくってほしい」と涙ながらに訴えた(産経新聞)。これに対し福田さんは「各省の抵抗があるといわれているが大丈夫だ。皆さんの期待に応えられる消費者庁を必ずつくる」(同)と言明した。
福田さんは、イージス艦「あたご」と衝突して行方不明になっている「清徳丸」乗組員の親族宅を訪れ謝罪したり(3月2日)、C型肝炎訴訟の被害者と首相官邸で面会したり(昨年12月25日)と比較的積極的に政府の最高責任者として頭を下げる面会を行う。とはいえ、自ら渦中のクリを拾うことはない。原爆症訴訟の原告団が全面解決を求める要望を首相にしても会うのは副官房長官(6月12日)だし、北朝鮮にいる日本人妻の早期帰国を訴える超党派の国会議員が官邸を訪れても、会うのはやはり副官房長官だ(4月16日)。
首相へ直接要望が行えるのは、首相側もそれなりに政治的な姿勢を表明できるからであることは間違いない。なにも福田さんに限らず、世界のどの政治家も同じだ。
福田さんとその周辺では、もう「消費者庁」の創設は既定路線になっている。来年度の開庁に向けて作業が進んでいる。
飛騨牛の必要以上と思える報道もこの動きに連動していると考えられる。確かに産地の偽装や品質表示の改ざんは悪いことだが、それが判明した後も安くておいしいからという理由で店頭はにぎわっているというのなら、高い電波や紙面を使って全国的に報道する価値はない。消費者が口にするのはブランドのタグではなく肉なのだから、その肉が安くておいしいのなら本来それは消費者のための商売だ。ここぞとばかりに偽装だ嘘つきだとやるのはマスコミが視聴者に消費者庁の必要性を訴えているようなもの。
福田さんが「消費者庁」の設立にこだわる理由は2つあると言える。ひとつは党内事情だ。
いったい何をやりたい内閣なのかさっぱり分からないという批判に福田さんが最も分かりやすく答えているのが「消費者」のための内閣だ。福田さんが安倍さんの後を継いだ昨年(2007年)は年初から消費者無視の事件が続いた。正月に大手生命保険4社が保険金を支払っていない事が発覚すると、ペコちゃんの不二家が消費期限の過ぎた牛乳を使っていたことが明らかになり、洋菓子販売を休止した。以降、ミートホープの牛肉ミンチ豚肉混入(6月)、北海道の「白い恋人」賞味期限改ざん(8月)、赤福の偽装に船場吉兆の改ざん(10月)と食の安全にかかわる偽装、改ざんが相次いだ。
「発掘!あるある大事典2」では納豆ダイエットのねつ造(1月)、パロマ工業製ガス湯沸かし器の長年にわたる一酸化炭素中毒事故の発覚と元社長の送検(2月)、誰が納めたか分からない年金保険料5千万件(4月)、タミフル服用後の異常行動発覚(4月)、エキスポランドでのジェットコースター車軸折れ脱線死亡事故(5月)、コムスンの介護事業所指定不正取得(6月)、渋谷の女性専用温泉施設の爆発死亡事故(6月)、駅前留学NOVAの会社更生法適用申請(10月)、そして今年に入ってからは中国餃子事件。消費者がないがしろにされた事件事故が相次いで発生した。
ここに国民の不満を読み取った福田さんが色のない内閣に消費者色をつければ、支持率が上がるのではないかという読みだ。自民党のイメージは企業寄りで、参議院選挙で大勝した民主党は消費者寄りだというイメージもあると分析する人もいて党内でも消費者寄りに軸足を移すことに賛成する声もある。
そこで福田さんは首相就任演説で、国民の安全・安心を重視する政治を掲げ、消費者保護のための行政機能の強化に取り組む所信を表明した。その実現のためにつくったのが「消費者問題調査会」だ。この会の会長が、小泉さんに追い出され戻ってきた野田聖子自民党広報部長だ。会長代理は河野太郎氏。顧問に加藤紘一、古賀誠、中川秀直、森山真弓、船田元の各氏。事務局長は後藤田正純氏。どう見ても反小泉色濃厚。
小泉さんが辞めたら一緒に辞めた小泉改革の先頭に立っていた竹中平蔵氏は判で押したように、消費者庁設立は自由な経済を阻害する恐れがあると反対の意見だ。
福田さんは小泉改革で生まれた格差社会を是正するための、いわば改革で大きく振れた振り子をいったん戻す役目の首相だ。自由経済を主張した小泉−竹中路線に反する民主路線を歩むのは自然なことで、そのための消費者保護と言える。福田さんはこれを「静かなる革命」と称しているが、革命に静かなものはなく、静かとつける原因は自民党の党内事情からくるものだ。
「消費者庁」設立でもう一つ見えるのは、官僚主義の温存だ。消費者庁をつくると各省の省益が消費者庁に奪われてしまうので各省庁が反対するというのがもっぱらの見方だ。しかし、これはよく考えればおかしい。例えば、今は農水省が所管のJAS法で賞味期限の表示を規制しているのだが、関連する食品衛生法は厚労省が所管している。これを消費者庁に移管すれば両方の法律を同時に所管することでより強大な監督をすることができる。このような消費者に直結する法律――消費者契約法、無限連鎖講防止法、金融商品販売法、出資法、貸金業法、割賦販売法、宅地建物取引業法、旅行業法、製造物責任法、食品安全基本法、消費生活用製品安全法、食品衛生法、消費者基本法、国民生活センター法、個人情報保護法、公益通報者保護法などはみな所管の省庁が違う。縦割り行政の典型で、日本は消費者保護ができていないと言われる原因だ。これらを1か所に集めれば当然強力な行政機構ができるわけで、各省庁が一時的に省益を失う事になるかもしれないが、官僚体制全体から見れば、官僚主義が確実に温存できる。オール官僚からすれば、よだれが出てくる新設官庁だ。
消費者庁構想は、パロマ工業のガス湯沸かし器事故がきっかけになって福田さんが提唱しているように見えるが実は構想自体は相当古い。豊田商事事件がきっかけだ。金の現物まがい商法により高齢者が狙い撃ちされたこの事件は、まったく行政上の責任が裁判で認められなかった。そのため日弁連が規制と救済、情報提供を有機的に行う役所として消費者庁の創設を提唱したものだ(1989年)。当時はバブル期。この時期に消費者庁を創設することは意味があったかもしれない。
それから20年近く歳月がたち、いまさら消費者庁かとがっかりする。消費者庁の設立は次の2点で納得がいかない。
(1) 新しい省庁を設立すれば、設立のための経費がかかる。大臣のポストも次官のポストも増える。今までの所管省庁から法律を移管し体制を整えるまでに行政の空白が生まれる。国民に新しいシステムを紹介しそれを理解し利用してもらうのには時間がかかる。それでなくても社会保険庁がなくなるし、中央と地方の業務移管が行われたり、医療保険が変わったりで、市民生活は混乱している。なんでこれを無駄遣いだと思わないのか。
(2) 消費者庁が消費者のためにあるのなら、他の省庁はいったい誰のためにあるというのか。本来、厚労省だって、経産省だって、農水省だって、財務省だって、防衛省だって、文科省だって、法務省だってどこだってみな国民のためにあるはずだ。消費者は国民じゃないのか。新しい省庁をつくるのではなく、今の省庁を消費者側に向けるのが言うならば「静かなる革命」ではないのか。
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参考資料:
通常国会閉幕 与野党、ねじれに痛み分け[2008年06月21日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
消費者庁、政府が基本計画案提示、自民了承へ[2008年06月20日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
首相、消費税上げ示唆 社会保障財源「決断の時期」[2008年06月18日 産経新聞 東京朝刊 1面]
諮問会議で首相方針 増税で財源確保 「骨太」波乱含み[2008年06月18日 産経新聞 東京朝刊 ]
消費者庁、30法令所管 首相執念、自民崩せる?[2008年06月14日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
消費者庁に強い「権限」 推進会議が報告書 30法令を所管[2008年06月13日 産経新聞 大阪夕刊 ]
食品表示は消費者庁に集約[2008年06月13日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
金融庁発足10年 消費者保護、続く模索[2008年06月05日 産経新聞 東京朝刊]
貸金業法など消費者庁 共同所管 金融庁と合意[2008年06月05日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
「消費者庁」閣僚折衝、首相は週内決着指示 “法令移管”ハードル[2008年06月03日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
【主張】消費者庁 組織論先行より実効性を[2008年05月23日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
消費者庁 枠組み明記 推進会議 最終報告素案を提示[2008年05月22日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
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「縦割り」排除に新法 消費者庁構想案 法律移管、閣僚折衝へ[2008年05月21日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
首相に消費者庁の早期創設を要請 湯沸かし器事故遺族ら[2008年05月20日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
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首相に涙で「消費者庁を」 パロマ事故遺族ら早期創設訴え[2008年05月19日 産経新聞 大阪夕刊 社会面]
【竹中平蔵 ポリシー・ウオッチ】行政が不況を作る[2008年05月19日 産経新聞 東京朝刊 1面]
窮余の一手 首相が「消費者庁」創設を表明[2008年04月24日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
消費者庁 創設意向 首相あす表明[2008年04月22日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
自民調査会 消費者庁創設を最終報告[2008年03月20日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
推進会議 制度づくりに着手 消費者行政一元化へ壁 ギョーザ事件で露呈[2008年02月13日 産経新聞 東京朝刊 総合・内政面]
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国民生活センター 波紋呼ぶ縮小計画[2007年12月04日 産経新聞 東京朝刊 生活・文化面]
原爆症訴訟原告団、福田首相へ解決要望書 [2008年6月13日 読売新聞 東京朝刊 3社]
製品安全広報大使、竹下景子さん3日で辞退「遺族考え」 過去にパロマCM出演 [2008年5月21日 読売新聞 東京夕刊 夕2社]
日本人妻の早期帰国で要望書 議連が福田首相に [2008年4月16日 読売新聞 東京朝刊 二面]
「消費者庁必要」首相が言明 強い権限、議論の焦点に 自民調査会報告書受け [2008年3月20日 読売新聞 東京朝刊 二面]
イージス衝突 福田首相、不明者宅で謝罪 親族「もう捜索やめて」 [2008年3月3日 読売新聞 東京朝刊 一面]
中国ギョーザ問題、「生活者重視」政権に試練 「食の安全」首相走る [2008年2月2日 読売新聞 東京朝刊 二面]
消費者行政の新組織は3案併記 悪質業者の収益没収も/自民検討 [2008年1月25日 読売新聞 東京朝刊 二面]
「消費者庁」構想 「国民の目線」アピール 閣内に慎重論も(解説) [2008年1月10日 読売新聞 東京朝刊 二面]
「消費者庁」創設を検討 食の安全など重視 福田首相が方針 [2008年1月10日 読売新聞 東京朝刊 一面]
消費者庁構想に懸念/沖縄相と農相 [2008年1月9日 読売新聞 東京朝刊 政治]
「消費者庁」創設に慎重姿勢/町村官房長官 [2008年1月8日 読売新聞 東京朝刊 政治]
薬害肝炎の救済法案 被害者は裁判所が認定 福田首相、原告に面会し謝罪 [2007年12月26日 読売新聞 東京朝刊 一面]
[永田町フィールドノート]自民の「賞味期限」切れぬように [2007年12月1日 読売新聞 東京朝刊 政治]
豊田商事訴訟 国の責任を認めず上告棄却 被害者敗訴が確定/最高裁 [2002年9月26日 読売新聞 東京夕刊 夕社会]
豊田商事事件特集 国賠訴訟29日に控訴審判決 国への怒り消えず/大阪高裁 [1998年1月26日 読売新聞 大阪朝刊 朝特G]
豊田商事国賠訴訟判決 「不当」怒る被害者 「行政責任どこへ 冷たい裁判所」 [1993年10月6日 読売新聞 大阪夕刊 夕社会]
参考サイト:
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