甘いものは本当に太るのか。 楽しい人生ではなかった「秋葉原」

自殺者3万人は多いのか。

岸田 徹 【岸コラ】
2008年6月3日(火)

年間自殺者数の推移・出典:藤田利治氏(国立保健医療科学院) なお、45歳から54歳の男の数値は男全体の数値に含まれる。45歳から54歳の男の数値は1950年から1974年までは5年おきのもの。「出会い系自殺」という言葉がある。若者たちがインターネットの自殺サイトで知り合い、睡眠剤や一酸化炭素中毒で一緒に死ぬ約束をして集団で自殺することだ。「現代用語の基礎知識(2005)」によれば、現代の若者たちは、繁栄した社会でかえって生きる意味を失い、苦労なく生きてきただけに、会社で上司に叱られながらも責任をもってみなと一緒に働くことが耐えられない苦痛となっているようで、将来に絶望し自殺を図るとある。

学校ではいじめによる自殺も「学校裏サイト」での記述がきっかけを作ったりで、若者のネットと自殺の関連は離し難い。硫化水素自殺が連鎖的に起こったのもインターネットの自殺サイトが自殺の方法を指南しているからだと言われている。また、うつ病との関係を指摘する声も根強い。将来を嘱望された女性アナウンサーの練炭自殺など若い人の自殺が後を絶たない印象だ。

一方、2月に寝たきりの夫(77歳)に頼まれて夫を包丁で刺殺し、自分(77歳)も自殺を図ったものの一命を取り留めた妻に対し、先月地裁の判決があった。懲役3年執行猶予5年の判決だったが、裁判長は執行猶予の理由を「犯行は短絡的だが、自らの足腰の痛みや心労を押して、昼夜にわたる献身的な介護を続けてきた」とした。このような介護殺人は6割が「老老」介護の人たちだと言われ、介護に疲れ、将来を悲観しての殺人や自殺も社会問題だ。

自殺者数は年間で3万人を超えている。静岡県で生まれてくる赤ん坊に相当する数で、全国の都道府県の平均出生数23,500人より多い。日本では15分に30人の新しい命が生まれているが、自殺者は15分に1人いる。交通事故で死亡する人は年間6,300人、1時間半に1人だ。

社会的な弱者である若者と老人が社会から無視されるように自殺に追い込まれている印象だが、実態は、そうとは言えないものだ。自殺者が3万人を超えたのは1998年で、前年より8,261人も多くなった。それまでの間20年以上も2万人台(1991年は1.9万人台)で推移してきたのがこの年からから急に3万人台に突入した。それからずっと3万人台が続いている(警察庁の発表)。右上のグラフは自殺者数を男女別にあらわしたものだが、これをご覧いただくと特徴的なことが3つお分かりいただける。

(1) 自殺者は男性が多く、1950年から一度も女性の自殺者が男性を上回ったことはない。

(2) さらに特徴的なのは、1998年に急増した自殺者数は男性の自殺者で増加した。

(3) もうひとつ、増加の山場は1983年にもあった。この年は、前年比4,317人。これも男性の自殺者数で増えたと言える。

1983年と1998年に男性の自殺者数の増加により、日本の自殺者の数がどんどん増加したことがお分かりいただけると思うが、男性の年代を分析すると、その増加の原因は45歳から54歳と55歳から64歳の人の自殺者数が増加したことによるものだ。数字の増加の要因がどの年代にあったかを10年刻みで見た場合の結果だ。特に45歳から55歳の男性の自殺増加は、1983年と1998年のピーク形成の要素になっている。

この二つの年を振り返ってみると、自殺は社会的な要因が大きいのではないかとうなずいてしまう。

1983年という年は、東京ディズニーランドが開園した年だが、この年を象徴するような人気のテレビドラマが2つあった。ひとつは、NHKの「おしん」、もう一つはTBS系の「金曜日の妻たちへ」(金妻)だ。「おしん」は辛い女の人生のドラマだし、「金妻」は核家族間の交流の中で起こる不倫ドラマだ。どちらも、社会進出で苦しみ悩みながらも努力し続ける女性の内心をえぐるようなドラマだ。

「おしん」の成年期を演じた田中裕子はその年にサントリーの「樹氷」の宣伝で、「タコが言うのよ」と焼酎で酔ってみせ、男の飲み物の代表だった焼酎を難なく奪った。歌手の松田聖子は絶好調で、郷ひろみとの噂が絶えなかったが破局し、郷は「哀愁のカサブランカ」。森進一の「冬のリヴィエラ」や梅沢富美男の「夢芝居」がどこか男の哀愁を感じさせた。シブがき隊も人気で、この年はいわば男のステージを女子供に奪われた年で、家族や会社のために頑張るお父さんにはスポットが全く当たらないまま、以降女性の社会進出はどんどん進んだ。

一方の1998年は、Windows 98に象徴されるように話題はパソコンに集中。郵便番号が7桁になり、社会は機械化の進展とともにデジタル社会に突入していた。翌年にはNTTドコモのiモードサービスが始まり、情報はネットで結ばれた個人が所有し出した。ネット社会は情報を組織の一部の者の所有物であることを許さず、瞬時のうちに世界中にあらゆる情報が国家の壁を突き破って往来しだした。この年に始まった日本版「金融ビッグバン」は国家による情報統制が維持できなくなった結果だ。デジタル社会は、パソコンの苦手なお父さんを直撃した。

この両年は、それまで日本では不動の主役だった会社でのお父さんの地位を強烈に脅かせた。1983年は優秀な女性社員が男性優位社会を崩し、1998年は温情と和で保っていた日本のアナログ社会を明確なスペックとディスクリプションでデジタル化し、浪花節の男社会を変革し始めた。両方とも待ったなしだった。

歴史にifはないが、恐らく前のピークだった1983年の女性進出による社会変革は情報のデジタル化と相まって1998年よりもっと早く男性優位社会を崩したはずだ。ところが、1983年のピークは一時的で自殺者数は減少の一途をたどった。要因はバブル経済で、1990年ごろのバブル崩壊まで、人々は浮かれ、この間の自殺者が減少したのは特筆すべきだ。バブル後の10年はバブルの後遺症で「失われた10年」と呼ばれた。この間も自殺者数が微増に留まったのは、男性の自殺者数が増加していたのに女性が減少していたためだ。失われた10年は、改革すべき時に足踏みをしたという意味で、社会の変革が一時ストップしたものだ。つまり、自殺者は社会環境の変革期に増加する傾向にあるわけで、このことからも自殺は個人の問題ではなく社会の問題だと言うことができる。

右上のグラフをもう一度ご覧いただきたい。上記の2度の増加ピークの前に、日本では戦後復興期に自殺者が一時増えた。この時は、15歳から24歳の若者と60歳以降の高齢者の自殺が数字を押し上げたものだ。このことから類推すれば、自殺は常に社会の弱者を直撃すると言えそうだ。しかし、弱者の弱い点とは社会が絶対的に規定するものではなく、自分自身の中にある相対的な感覚だとも言える。現状では夢が持てなかったり、かつての地位を奪われることによって落ち込む弱さだ。この感覚は個人差がある。その弱さは、自分で把握しコントロールできる場合もあれば、精神障害を起こし病的な症状から自分ではコントロールできなくなる場合もある。

自然界は弱肉強食の世界だ。人間もその自然界の法則に従わざるを得ない。強い者が常に優位であることは仕方のないことだ。同時に、人間社会の法則の中には、すべての者が一致協力して同じ方向を向いていくことができない法則がある。社会の枠組みの中では体制に不満を持つ反体制の人が必ずいるものだ。この反体制の人たちは体制に反発するために生まれるわけではなく、人間が社会環境の変化の中で、次の体制をつくるために必要な人たちだ。人間が種として存続していくためには必要不可欠な存在だ。

だからと言って、体制に満足しない人たちが自殺に追い込まれても仕方がないというわけではない。不満を持つ弱者の立場の人たちに死を選ばせるというのは最低で、体制を維持する強者は、知力や気力や愛情で弱者に死を選ばせない仕組みを努力して作るべきだ。

これと並行して、自殺が自分を弱者だと認識してしまう内面的で相対的な価値観から行われるとすれば、社会があるから自分が生きていくことが出来ているという被支配的な認識を棄て、自分がいるから社会が形成されているのだという自覚を個人全員が持つべきだ。この自覚は生まれた時から教育すれば植え付けることができる。

男性社会の枠組みを変えていき、男の人生観が変われば、年間3万人の自殺者数は減少するだろう。しかし、そのままでは女性の自殺者が増えることになり、近い将来、女の自殺者が男を上回ることになってしまう。社会の変革期には自殺者が増えてしまうのが今までの傾向だ。情報化社会では世の中の変化が激しい。変革されても自殺者を減らすには、社会のモデルを各階層の意見で作らなくてはいけない。これには、市民意識を持った国民の政治参加が何よりも必要だ。それがなかなかできない。恐らく強い者が利権を踏襲し、弱い者の政治参加をしにくくしているのだろう。こんな状態で、よく自殺者が年間3万人で収まっていると不思議に思えてくる。こんな状態が進めば、日本にだって暴動が起きる可能性がある。弱者の暴動が起きる前に、強い者たちは、社会に不都合な利権は早く返上し、住みよい全員参加の高齢化社会を実現させる努力をすべきだ。

自殺者の増加は数だけが残り、自殺した理由を聞き出すことはできない。統計数字の中でもトレースができない特異な存在だ。もし、自殺後にその理由を本人から直接調査することができたら、年間3万人という数字は、数字以上に衝撃的なものに違いない。本来、人間の愛はひとりの自殺者も許すことができないからだ。

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参考資料:

Microsoftエンカルタ総合大百科2008:「自殺」「自殺対策連絡協議会」「自殺対策基本法」

硫化水素で自殺か 高岡の駐車場=富山 [2008年5月27日読売新聞東京朝刊 富山]

三輪中いじめ自殺 森君の父、1年時担任との面会要求 中学応じず県教委=福岡 [2008年5月27日読売新聞西部朝刊 福岡]

川田亜子アナが自殺 車に練炭、家族あて遺書も [2008年5月26日読売新聞東京夕刊 夕社会]

「心の病」労災、最多268人 自殺は4年前の2倍/2007年度 [2008年5月24日読売新聞東京朝刊 一面]

自衛官割腹事件を陳謝/防衛省 [2008年5月24日読売新聞東京朝刊 政治]

嘱託殺人の77歳に猶予判決 地裁「夫の分も生きて」=茨城 [2008年5月22日読売新聞東京朝刊 茨城東]

[検索@とくしま]「徳島いのちの電話」 人員不足、活動に影=徳島 [2008年5月18日読売新聞大阪朝刊 徳島]

[安心事典]自殺の悲劇、年3万人 社会的な問題 [2007年11月15日読売新聞東京夕刊 安心C]

自殺対策基本法が成立 民間団体の活動、結実/衆院本会議 [2006年6月16日読売新聞東京朝刊 2社]

参考サイト:

自殺予防総合対策センター

自殺死亡統計(国立保健医療科学院・藤田利治氏作成)

「自殺を予防する自殺事例報道のあり方について」のWHO勧告(2000年)

特定非営利活動法人 国際ビフレンダーズ 東京自殺防止センター

自殺対策基本法

都道府県別の人口動態

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