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岸田 徹 【岸コラ】 |
時は4年前の秋(2003年10月)。小泉政権は、はじめての衆議院選挙を翌月に控えていた。連立で改革を遂行する自民党か政権交代の民主党か、小泉純一郎対菅直人のマニフェスト選挙だった。「定年」を理由に中曽根さんが選挙に出られなかったあの選挙だ。
菅さんの十八番であるマニフェストに対抗するかのように、小泉さんは政権公約をいつまでにやるかを区切って示した。公約は8つ。
不景気にあえぐ国民に対し、小泉さんは改革が進めば景気はよくなる、それまでは痛みが伴うと訴えた。選挙結果は自民と民主の勝利で、少数政党が議席を減らした。自民党は単独過半数に迫る勢いだった。
それから、この8つの公約はどうなったか。経済成長率や雇用創出、不法滞在者の数値は法律で決めても達成できる問題ではない。しかし、その他の公約は法案成立が公約実現になる。
郵政民営化は関連法案が出されたが参議院で否決されたため、衆議院を解散し(2005年8月)民意を問う小泉さんが圧勝し法案を通した。郵政は今年の10月に民営化される予定だ。道路公団は2005年10月に分割民営化された。教育基本法は昨年12月に全面改正された(【サカスト】では一貫して反対)。憲法改正草案は2005年10月に発表された。憲法改正に必要な国民投票実施に向けて、昨日安倍首相が国民投票法案は「絶対に今国会で成立させる」(読売新聞)と意気込む。
小泉さんの法案成立の公約は道州制を除いてほぼすべて公約期間内に果たした。その道州制も小泉さんの選挙公約で終わらずに、安倍さんが教育基本法改正と同様、「道州制特区推進法」を去年の12月に成立させた。道州制が単なる選挙のための公約ではなかったことが分る。
安倍内閣が発足した去年の9月、安倍さんは国民が最も心配する年金制度改革については担当大臣を置かずに、佐田玄一郎行革相に道州制担当を任命した(その後佐田氏は金銭問題で辞任し現在はミッチーの息子である渡辺喜美氏が担当)。どうして、安倍さんと小泉さんはそんなに道州制にこだわるのか。
道州制は「道」が入るからピンと来ない。道を外し、「州制」とすればアメリカの州制度がひらめき、日本にも州政府を作ることかとピンとくる。日本を47都道府県から、北海道、東北、北関東信越、南関東、中部、関西、中国・四国、九州、沖縄の9道州にしようとか東京を独立させて10道州にしようとか、14や15にしようとか言われるのが道州制だ。
今の選挙制度で比例選挙が全国を11ブロックに分けているので、各県がグループになって全国を区分けするのなら、それもひとつのやり方だと思われるかもしれないが、事はそう簡単ではない。
昨年12月に安倍さんが成立させた「道州制特区推進法」は北海道を道州制のモデルとして実施するための法律だ。北海道の高橋はるみ知事に道州制を持ちかけたのは小泉さんだった。それが2003年の8月。それから1ヶ月ちょっとで小泉さんは衆議院選挙の党公約に「北海道道州制特区」を入れたのだった。
もし、他の地域で道州制を試すことになれば、合併する県を3、4ヶ所探さなくてはならない。ところが、北海道なら北海道さえ納得すれば道州制を試すことができる。
北海道をターゲットにしたのはそんな理由だったのだろうが、道州制反対ののろしはいたるところで上がった。一番大きなのろしは北海道開発局。長いこと北海道の開発を担当してきた国の出先機関だ。ここが、下請けのゼネコンと一緒になって道州制に大反対した。
小泉さんからのラブコールに最初は戸惑いがあった高橋知事だったが、次第に本気になり、半年後には反対勢力と真っ向から戦う姿勢に転じた。高橋知事はもともと通産官僚だったが、自民党が推薦し長年野党に取られていた知事の座を自民党が取り返した。自民党に従えば、古巣の官僚である仲間を裏切ることになり、仲間を擁護すれば自民党からの支持は得られない、苦しい選択だったろうが、高橋さんは時代を読み取り、小泉改革に乗った。
その結果、一部の通産官僚を除き、厚労省、文科省、農水省からは総スカンだった。官僚に嫌われた理由は、高橋知事が示した道州制の骨格にあった。それは、北海道に来ている40近い国の出先機関を統合一元化し、それを道庁と共に廃止、その上で州政府を新設するというものだった。国の権限を根こそぎ取ろうとしたところに官僚が既得権益を奪われると心配した。
北海道開発局ではある試算を展開し、もし道州制が実施されれば4万人が失業すると発表した(2004年4月)。北海道はもともと公共事業が道経済のけん引役だと言われ、「北海道特例」という優遇政策のお陰で、国の公共事業が他府県に比べ多い。それが、道州制になればなくなるというのが4万人失業の根拠だった。
しかし、北海道の開拓はいつまでも続かないと思っている道民が多いことも事実で、小泉さんに言わせれば、開発局の職員は外務省の職員より多いとやゆされた。
高橋知事は、政府が道州制を北海道で試すのなら、国からの権限委譲に伴う十分な予算措置と北海道特例の堅持、地方分権の推進を条件にするよう求めた。ところが、官僚の壁に阻まれて、政府も一向に具体案を示さず、たなざらし状態が続いた。
これに活を入れたのがイエスマンの自民党武部幹事長で、選挙公約をしているのになんでやらないと憤慨した。その影響かどうかは断定できないが、官僚の話合いがついたのか、北海道開発局は温存され、骨抜きとささやかれながらも小泉さんの最後の国会で法案が提出された。国会で成立する多くの法案は官僚が作るものだが、この法案は自民党の議員立法だ。教育基本法改正案も同時に出され、いじめ問題が噴出し国会は空転、会期の延長はしないという小泉さんの方針で道州制特区推進法は流れたが、安倍内閣で成立した。
道州制は、この流れからすると、国民的議論のないまま北海道に限らず全国に展開されるだろう。日本は明治維新以来、官僚による中央集権の国家だ。全国に州政府ができれば、開発案件ばかりでなく、幼稚園から学校、病院、特別養護施設までの認可や、交通、環境に関する問題をはじめありとあらゆる認可行政が州に移管されることになる。そうなると、霞ヶ関は崩壊。小泉さんが狙ったとおりの展開になるのだろうが、はたして自民党の目論見はそんな官僚社会の終焉だろうか。
恐らく違う。道州制で自民党がにらむ先は、次の二つではないか。
ひとつは、莫大な国債の処理だ。もう政府が処理できる限界をとっくに過ぎている。国内に州政府を作り、国が中央で握っていた権限を財源と共に州に移譲する代わりに、それ相応の国債も州債として移管したいと思っているのではないか。
国債の増発については、大蔵省は元来反対の姿勢を貫いていた。しかし、歴代の自民党総裁の方針で赤字国債が増発された。景気の浮揚策のつもりだったのだろうが、ゼネコン擁護と人気取りだったことは間違いない。無駄遣いは官僚のせいにできても、赤字国債の大量発行は自民党の責任以外にもっていく場所はない。
自民党は国債の移管により責任の所在を曖昧にし、歴史から赤字国債大量発行の責任を削除したいと考えているのではないか。
もうひとつは、アメリカとの同盟だ。道州制にして一番喜ぶのはアメリカだ。日本がアメリカと同じような政策運営システムになれば、アメリカが日本と歩調を取りやすくなるばかりか、アメリカ資本の日本進出が容易にできる。
一方、日本政府は、国内の政治は各州に任せ、自分は外交・防衛に専念できる。日本政府が国際社会をリードするには、国内動向に左右されていては仕事にならない。国内政治と外交・防衛を分離する手立ては道州制が最も確実だ。
同時進行している自民党の憲法改正草案も突き詰めれば第9条だけの変更だと言える。平和憲法に縛られることなく、本格的に防衛軍を作り、世界で認められる国になるためには、道州制が欠かせない。
自民党にとっては今までの政策の清算と将来への飛躍のために道州制を導入したいのだろうが、我々は本当にそんな州政府の誕生を望んでいるだろうか。
中央集権は地方から霞ヶ関への陳情合戦を助長し、道州制による権限と財源の移譲は、そのような不合理を排除できる時代が求める制度だとマスコミの論調には全面的に賛意を表すところがあるが、本当だろうか。そんなものは、陳情を受入れなければすむことだ。
道州制が悪いとは言わないが、制度さえ変えれば幸せになれると思ったら大間違いだ。どんな制度も魂が入らないと機能しない。魂を入れるには、それを運営する人たちの期待と努力が必要だ。
道州制を本当に国民のために機能させるには、国民がそれを望むまで議論を尽くすことが必要だ。その役目はマスコミに負うところが大きいのだが、日本のマスコミは、記者クラブが官僚機構に根を張りそこからの情報で記事を作成しているので、官僚が情報を提供しないとなかなか記事にならない。国民的議論などできる土壌にないのだ。
制度が変わって弱い国民が利益を得ることはまずない。制度変更時のドサクサで組織力のある一握りの勢力が弱い民衆から大量の財産を奪い取るのが歴史の真実だ。
参考資料:
Microsoftエンカルタ総合大百科2007:「道州制」
2007. 03. 15 国民投票法案「絶対に今国会で」/安倍首相 [読売新聞東京朝刊]
2007. 03. 07 高橋知事、公約168項目固める 過疎市町村へ交付金など=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2006. 12. 20 道開発、薄らぐ存在意義(解説)=北海道 [読売新聞東京夕刊]
2006. 12. 14 道州制特区推進法成立 知事、次回提案へ意欲 民主は批判=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2006. 12. 13 道州制特区法案きょう成立 北海道開発局事業は温存 権限移譲8項目止まり [読売新聞東京朝刊]
2006. 11. 23 道州制特区法案を可決/衆院委 [読売新聞東京朝刊]
2006. 11. 08 道州制推進法案 来週衆院通過へ=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2006. 06. 01 国会会期延長、週内にも判断 道州制特区法案の成立見送りへ/政府・与党 [読売新聞東京朝刊]
2006. 05. 13 自民調査会、道州制法案を了承 19日に閣議決定=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2006. 04. 22 道州制法案巡り、道議会各会派が応酬=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2006. 04. 14 [動き出す道州制](下)揺れる開発局 避けられぬ存廃論議(連載)=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2006. 04. 13 [動き出す道州制](上)試される道の構想力(連載)=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2006. 04. 12 道州制法案 高橋知事、受け入れへ=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2006. 04. 09 民主、道州制法案を批判 「理念なく、道民との議論不足」=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2006. 03. 21 道州制法案 「一括交付金」認めず 政府・与党が最終調整=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2006. 03. 19 道州制特区法案 「特例維持を」大合唱 自民道連大会=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2006. 03. 16 自民党の道州制検討小委 法案要綱、週明け提出へ=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2006. 03. 02 [社説]道州制答申 前進へ議論のたたき台が出来た [読売新聞東京朝刊]
2006. 02. 12 自民・中川参院議員、道州制特区に反対=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2006. 02. 04 道州制特区推進法案骨子 高橋知事、後押し表明=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2005. 11. 17 高橋知事、東大で講演 道州制特区構想に厳しい質問相次ぐ=北海道 [読売新聞東京夕刊]
2005. 09. 07 道州制特区、一括法案提出の考え 岩見沢で武部幹事長=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2005. 04. 17 [日曜焦点]高橋知事・任期折り返し 道民の悲願、新幹線を誘致=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2005. 02. 03 道州制“舌戦” 武部幹事長VS中川義参院議員=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2004. 10. 27 道州制懇初会合 議論進まず、高橋知事イライラ=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2004. 08. 11 道州制特区構想 国側、冷ややか 道民理解へ道は努力を(解説)=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2004. 06. 29 道州制特区で道と市町村が円卓会議=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2004. 06. 01 「開発局の人だけで外務省より多いのか」 小泉首相、スリム化示唆=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2004. 05. 30 高橋知事提案の道州制構想 他県の知事からエール 中央省庁は冷ややか=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2004. 05. 29 道州制特区を知事が経財諮問会議に提示 具体案、再提出求められる=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2004. 04. 28 「道州制で4万人失業」開発局が試算公表 道庁との統合をけん制=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2004. 04. 16 道州制特区 高橋知事、小泉首相と会談へ 中央省庁突破へ直接提言=北海道 [読売新聞東京夕刊]
2004. 04. 03 高橋知事、「上書き権」小泉首相に要請へ 道条例で政省令書き改め=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2004. 01. 08 道州制道民臨調部会が初会議 関税免除、カジノなど提言=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2003. 12. 22 道州制モデル事業推進費 国が関与か 予算100億円裁量、骨抜き懸念=北海道 東京朝刊]
2003. 12. 20 道州制特区担当相に竹中経財相就任へ=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2003. 10. 10 自民党が政権公約を決定 東京夕刊]
2003. 10. 03 「道州制」論議に「特区」は禁句 会合で高橋知事=北海道 [読売新聞東京朝刊]
2003. 10. 02 道州制特区構想、党として後押し 札幌で自民・安倍幹事長=北海道東京朝刊]
2003. 08. 26 「道州制特区」を検討 小泉首相表明へ 北海道を対象に [読売新聞東京朝刊]
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