大本営発表、サマワ

産経新聞の記事だ。

陸上自衛隊の「第三次イラク復興支援群」の主力となる第二陣約二百三十人(うち女性十一人)が十五日、青森空港から出発。クウェートを経由し約一週間の訓練後、イラク南部サマワに入る。(8月16日付)

新聞報道としては最低の記事だ。どこが最低かというと数字。国民の税金で復興支援に行く自衛隊員の数を「約230人」としているのだ。約230人とは231人なのか229人なのか。新聞の記録性を徹底的に教え込まれているはずの新聞記者が、こんないい加減な数字を報道するのはおかしい。

このおかしさはさらに続く。「うち女性11人」というのだ。なんでこっちは「約10人」じゃないのか。

派遣された自衛隊員は、第九師団から選ばれている。第九師団は青森、岩手、秋田の三県に駐屯している。そのため、この記事は地元紙の「東奥日報」に詳しい。これがまたおかしいのだ。やはり「約230人」とした上で、その内訳を記事にしている。その内訳数字は「約」がない。これを合計すれば、ぴったり230人なのだ。

その理由を発表している記事はどこにもない。ただ、詮索できる根拠はある。

実は、先々週あたりに防衛庁は朝日新聞に対して抗議をしている。抗議の内容は、朝日新聞が4月に「空自機で邦人退避へ」「きょうにも報道陣、サマワから」と見出しをつけて、邦人輸送の予定を掲載したことについてだった。

なんでこれが抗議の対象になったかというと、防衛庁と新聞協会はサマワの報道について協定を結び、部隊活動の内容については事前に同意を得てから行うことになっていたからだった。その目的は隊員と新聞記者の安全確保。つまり、事前に自衛隊の活動内容を報道したのではテロに狙われるという訳。新聞記者も同様にソフトターゲットとなって狙われる。朝日の記事は「きょうにも」と日にちを特定したので、狙われる可能性が大きいとして、これは「部隊活動」の範疇だと防衛庁が抗議した。

これに対し、朝日新聞側は「今日」と断定した訳ではなく「きょうにも」とぼかしたと釈明しながらも、防衛庁に謝っている。

報道側の「約230人」は断定を避けたという「いい訳」のつもりなのだろう。読む側がそんな行間まで読まなくてはならないほど、サマワの状況についてはまともな報道がされていない。

夏休みを終えた小泉首相は閣議を終えてすぐサマワで活躍する自衛隊の様子をビデオ鑑賞した。どんなビデオかは分からない。小泉さんは夏休み前にサマワでの雇用対策に力を入れるように谷内官房副長官補に指示し、外務、防衛両省は独自にチームまで作って対策を練っている。小泉さんはサマワの人たちに喜んでもらって、どうしてもイラクを劇的に訪問したいらしい。

ところが、サマワの情勢はそんな甘いものじゃない。任務を終えて帰国した復興業務支援隊長の佐藤正久一等陸佐は、石破防衛庁長官に帰朝報告した後の記者会見で「満足の行く結果を出すことができた」と述べたが、一方では「すでに専門家の力が必要な段階に入った」と自衛隊活動の限界を指摘している。

現在のイラクはイスラム教シーア派で反米指導者のサドル師の動向に注目が集まっている。かつては一部の過激な行動がナジャフで起こっているという状態だったが、現在ではサドル師への同情がイラク全土に広がっている。サマワの宿営地近くに砲弾が着弾したというのもこの同情が広がっていると見れる。(「宿営地近く」というのも防衛庁の発表。朝日新聞は「宿営地に落ちた」と報道し、防衛庁から抗議を受けている)

サマワでの自衛隊活動をどうすべきか日本人自身が考えなくてはならない時に、報道は制限されている。現地に近い海外からの報道はカイロからで、サマワの情報は日本の防衛庁が発表したものがほとんど。サマワから直接入ってくる通信社の記事は報道協定に縛られたものだ。これにオリンピックのメダルラッシュで日本が戦争に参加しているという意識はすっかり消えてしまった。

日本は「大本営発表」になっている。これを誰も言わないのも恐ろしい。

2004年8月25日(水)

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参考資料:

産経新聞

参考サイト:

小林サマーワ事務所長インタビュー

イラク派遣・着弾地点を捜す陸自隊員

サマワで被爆した米駐留軍兵士、テレビで告発

オランダ軍、夜間ヘリ投入=陸自宿営地の砲撃犯捜索で−警戒に限界も・サマワ

大本営発表

『大本営発表は生きている』を刊行 保阪正康さんに聞く