八城さんが新生銀行の社長に就任し、長銀は外資の銀行になった。それから2ヶ月もしないでそごうの副社長が首吊り自殺をした。長銀出身の阿部さんだった。長銀の常務をしていたが経営不振で行き詰ったそごうを再建するために出向き、一手に財務を担当していた。
しかし、そごうの業績は一向に上がらず、ついに6千億円以上の債権放棄を取引銀行に依頼する立場になってしまった。そごうの取引は興銀がメイン、長銀は準メインだったが、その他に融資を受けていた金融機関は70以上あった。その一つ一つにこれからお願いするのだ。
興銀はこのために専任スタッフを数名そごうに送り込んだ。ところが長銀は阿部さん一人にこの役を負わせた。そごうは普通の会社じゃない。再建が遅々として進まない最大の原因はオーナーの水島前会長の存在だといわれていた。阿部さんらが作る再建計画になかなかうんとはいわない水島前会長。結局、銀行などの債権者とオーナーとの狭間で動きが取れないまま再建計画は銀行の債権放棄を要請するものになってしまった。
阿部さんが長銀から来たことは誰でも知っている。その阿部さんが一つ一つ銀行を訪ね融資を棒引きにしてくれと頼む姿を想像してほしい。いわれたほうは必ずこういうはずだ「長銀さんはどうなさるんですかね」。長銀はもうない。外資に売られてしまったのだ。阿部さんが八城さんに会いに行っても話しが進まないのは火を見るよりも明らかだ。水島オーナーにそんな事情を話すとすれば「あなたは何のために来たのだ」といわれるに決まっている。
何という運命になってしまったのか。首吊り自殺が発見されると識者はエリートの弱い面だと自殺そのものの無意味さを指摘した。しかし、こんな罠にはまれば誰だって死を考える。そして、その死を誘う人が二人もいた。
このタイミングを見てほしい。時は1999年だ。
5月6日 長銀上原隆元副頭取首吊り自殺
5月11日 リップルウッドが長銀買収のため投資家を集めるとファイナンシャル・タイムズ紙(イギリス)が報道
5月17日 長銀福田一憲大阪支店長首吊り自殺
6月10日 長銀大野木元頭取ら粉飾決算容疑で逮捕
上原元副頭取は、大野木頭取の後と目されていた東大卒のエリートでスイス銀行と提携をし長銀再建を果たそうとした中心人物。スイス銀行との提携は金融界をあっといわせた。大変な切れ者だ。当然、銀行の中枢にいたので決算も決済する立場にいた。
福田支店長は京大卒のエリートで大阪支店長の前に融資第一部長をやっていた。不良債権処理の中心人物だった。上原元副頭取が自殺した際には東京地検特捜部の事情聴取を受けていたとの報道がすばやく流れたが、福田支店長のときは、長銀の広報担当者も言葉を濁し受けていたとの報道がまったくない。しかし、受けていないはずがない。二人ともこの聴取が自殺の動機に間違いないはずだ。
長銀は住友信託銀行から合併はしないと突き放されたが、当然のことだった。どこの銀行も長銀の不良債権を吸収できるほど健全な銀行などなかったからだ。当時公表されたリスク債権額は長銀が1兆3千億円あまり。住友信託は1兆1千億円あまり。この状況で長銀を合併することは住友信託の株主がうんとは言わないはず。共倒れになるからだ。
そんな金融機関ばかりなのに、どうして長銀だけが違法に配当したといわれなければならないのか。本当に粉飾決算だったのか。大変疑問だ。銀行は金を貸して利息を取り儲ける。その額が多ければ多く配当できる。少なければ少ない配当だ。これに、もし貸した金が返ってこなければ、他に貸した利息収入でその元金をまかなわないと預けてくれた人に返せない。ところが、返せない先に融資をすればその融資金から利息を銀行に払える。これはトリックだ。しかし、融資というのはもともとお金を融通することで、一時的にお金がなくなった場合に貸すのが本業だ。融資している先に再び融資することはよくあることだ。それを危ない先だからこれ以上融資してはいけないと判断すれば相手は潰れる。危ないと判断しなければ、その融資先には融資できるわけだから、銀行には利息が入ってきて銀行は儲かり、株主に配当ができる。
こうなると、配当できるかできないかは、不良債権にするかしないかで決まるといえる。じゃ、いったい誰がこの貸し出しは不良債権だと判断するのか。その銀行が判断するのは当然だが、その判断基準というのは大蔵省が決めているのだ。だから、大蔵省はその額が適正かどうか事前に知っているはずなのだ。
大野木頭取も自殺した上原元副頭取も福田支店長も当然その認識だ。だから、まさか自分が責められるなどとは夢にも思わなかったはずだ。
ところが、論点がそこに移ると大蔵省の責任は免れない。日銀も検査をしているから責任を追求される。そこで、最も簡単に官僚が責任逃れをする方法が吸収合併なのだ。対等じゃダメだ。吸収してもらわないとその責任がいつ飛び火するか分からない。吸収させ、旧経営陣を犯罪者にし白黒をはっきりさせて過去を消す。これが手だ。住友信託のリスク債権額も長銀に似たり寄ったりなのに住友信託が吸収合併すると宣言した背景にはこれがあると私は踏んでいる。
その住友信託にそっぽを向かれた長銀はどうやってフタをしたらいいのか。そこで外資が手を上げてくれた。このチャンスを逃すまいと、高級官僚を助け合う東京地検特捜部が、最初に「粉飾決算ありき」で関係者を執拗に聴取する。地検の聴取など受けたことのないエリートは、検事に脅しすかされ最後には供述書に判を押す。これで狙われた頭取は立件される。供述書に判を押した者は仲間を裏切った許せない自分と、その疑いがいつ自分に振りかざされるか分からない恐怖で死が向こうからやってくる。人間、たたけば埃ぐらい出るものだ。検事はそれをよく知っているし、エリート被疑者はそれがあらわになることが許されない。
こういう悲劇は繰り返してはいけない。頭取や副頭取などダメなら次がいくらでもいる。夫や父親の次はいないのだ。
2004年2月18日(水)
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